2012年3月31日土曜日

「イオン」の取り組み

毎日新聞 2012年3月5日 東京朝刊
東日本大震災:どうする放射能汚染/1 スーパー、自主検査強化
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20120305ddm013040007000c.html

「放射性物質『ゼロ』を目標に」--。大きな文字で書かれた張り紙が売り場のあちこちに目立つ。2 月下旬の平日午後5時過ぎ、東京都品川区のスーパー、イオン品川シーサイド店。多くの買い物客でにぎわう中、10歳と3歳の子どもを連れた主婦(33)は 「お店が検査しているみたいだし、信頼している」と話し、夕飯用の食材選びを急いだ。一方、1歳3カ月の長女を抱いた主婦(37)は「自分だけのことなら ともかく、娘の離乳食には神経を使う」と厳しい表情を崩さない。
昨年3月11日の東日本大震災を機に起きた東京電力福島第1原発事故で、食品の放射能汚染の不安が一気に広がった。「売り場に並んでいる商品は大 丈夫か」との声に応えるため、大手スーパー、イオン(本社・千葉市美浜区)は事故直後から、プライベートブランド(PB)「トップバリュ」の商品を中心に サンプルを抽出し、放射性物質含有量の自主検査を始めた(牛肉は7月から全頭検査)。
国の暫定規制値は、野菜や肉など一般食品の場合、1キロあたり500ベクレル(4月から適用される新基準値は同100ベクレル)。だがイオンは暫 定規制値の10分の1にあたる同50ベクレルを「独自基準」に設定。外部機関に委託し、昨年末までに農畜産物や牛乳、玄米など計6656件を検査した。基 準を超えた33点は出荷を停止した。
昨年11月には「いくら『安全です』と言っても消費者は納得しない。情報を開示し『主観的に』安心してもらおう」として、野菜や魚などすべての検 体の検査結果をウェブサイトで公開。検出限界値(検出器などで異なるが、イオンの場合、一般食品で10ベクレル前後)や出荷状況も載せた。
そのうえで「放射性物質『ゼロ』を目指す」と宣言。検出限界をわずかでも超えた商品は一切売り場に出さず、「不検出」となるまで、出荷元である契約農家らとの取引を停止する思い切った取り組みを始めた。
近沢靖英・執行役は「小売業は国に従うだけでなく、消費者の気持ちをくみ取って対策をとるべきだ。そうすることで消費回復につながり、生産者を守ることにもなる。消費者の不安な気持ちを理解すれば、限りなくゼロを目指すしかないと考えた」と話す。
イトーヨーカ堂やヨークベニマル、ヨークマートなどを傘下に持つセブン&アイ・ホールディングス(東京都千代田区)も、PB「顔が見える」シリー ズを中心に、外部機関に委託し検査を進めている。野菜・果物の検査数は計501件(肉・魚は非公表)で、検査結果をサイトで公表している。さらに、東北と 関東1都10県の全4700の契約農家に土壌調査を実施するよう求め、肥料や堆肥(たいひ)についても、入手元や原材料の確認作業をしている。

スーパーなど小売各社は原発事故以降、相次ぎ自主検査に乗り出し、その後も対応を強化している。ただ、どんなに検査しても、結果を消費者に信じてもらわなければ何も始まらない。
商品の一つ一つに「放射性物質不検出」と表示すればわかりやすいが、それはできないのが現状だ。「すべてを検査するのは態勢的にもコスト的にも不 可能。検査はあくまでサンプルを取り出して実施する『サンプル検査』になる」と、日本生活協同組合連合会(渋谷区、日本生協連)の内堀伸健・品質保証本部 長は説明する。
日本生協連は、PB「コープ商品」として、米や牛乳、ウインナーなどの加工品を食品メーカーに製造委託し、加盟する全国の生協に卸している。検査 は基本的に、自前の検査センターで精度の高いゲルマニウム半導体検出器を用いて実施。原発事故後から今年1月末までに検査したのは1000件以上に上る。 原料が東北や北関東産だったり、メーカーの工場が東北にある場合など地理的な汚染リスクを考慮してサンプルを選んでいるという。
内堀本部長は「消費者には、行政の検査結果と合わせ、『傾向値』として安全性を判断してほしい」と力説する。例えば牛乳の場合、日本生協連の自主 検査では25品目の原乳を計90件調べ、一度も検出限界(1キロあたり10ベクレル)を超えなかった。各地の自治体が実施するモニタリング検査でも昨年4 月以降、牛乳が出荷規制された例はない。こうした状況を総合的に考慮してほしいのだという。

放射性物質の一つであるセシウム137の半減期は30年にわたる。この先、長く続きそうな食品の放射能対策は、消費不況にあえぐスーパーなど小売業を疲弊させる可能性もある。既に各社の費用負担は大きく膨らんでいる。
イオンのこれまでの検査委託費は1億円を超えた。長期戦になることを予想し、自前の検査体制を整えるため、約2000万円と高額なゲルマニウム半 導体検出器や、1台250万円程度する簡易型の検出器数台の購入も決めた。同社は放射性物質が検出され、出荷を停止した農産物などを買い取っており、この 負担も大きい。
日本生協連も先月、ゲルマニウム半導体検出器を1台新たに購入した。新年度から計2台で年4000検体が調べられる態勢となる。
イオンの近沢執行役は「自主検査は今後もずっと続く。どうすれば消費者にもっと分かりやすい表示ができるかなど、いろいろ考えて進めていかねばならない」と話す。
一方、日本生協連の内堀本部長は、国の要請などに基づくモニタリング検査だけでも既に11万件を超えているとし、「国が本気になればこれだけでき るのだと分かった。検査方法や結果についても、国はもっと分かりやすく国民に伝える努力をしてほしい」と呼び掛ける。【稲田佳代】
◇  ◇
大地に、海に降り注いだ放射線は人々の暮らしを一変させた。土の上で子供が遊び回り、安心して何でも食べられるようになる日は遠い。放射能汚染に苦しみ、その除去に取り組む人たちを追った。=つづく
毎日新聞 2012年3月5日 東京朝刊



 毎日新聞 2012年3月6日 東京朝刊
東日本大震災:どうする放射能汚染/2 検査・公表、悩むメーカー
http://mainichi.jp/life/food/news/20120306ddm013040006000c.html

 ◇風評被害恐れ対応慎重 情報積極開示で販売回復も

おなじみの商品のラベルがパソコンの画面に並ぶ。ヨーグルトにビスケット、冷凍の空揚げ……。商品に含まれる放射性セシウム(134と137の合 計)が1キログラムあたり20ベクレル以下で、安全と思われる商品がデータベース化されている。このサイト(http://bq-maru.com/wp /)は放射能測定器レンタルスペース「ベクミル」(千葉県柏市)が運営。1日に3000件のアクセスがある。
 代表の高松素弘さん(47)は2児の父親だ。子どもが口にしても大丈夫な商品が知りたくて、測定を始めた。対象はスーパーマーケットやコンビニエ ンスストアで手に入る身近なもの。消費者が持ち込む野菜や土の測定の合間を縫って調べており、2月末までに検査を終えた1200点をサイトに掲載した。
 これまで20ベクレルを超えた商品は10点ほどある。商品名は明らかにしていない。同じ商品を検査しても、製造日やロットによって、結果の変わることがあるからだ。高松さんは「放射能測定はとてもあいまい。数値の独り歩きは危険」と強調する。
 食品に含まれる放射性セシウムの新基準値(4月から適用)は一般食品が100ベクレル、牛乳と乳児用食品が50ベクレル。ベクミルの設定する20 ベクレルはかなり低い。測定を繰り返し、何度も20ベクレルを超えた商品はメーカーに報告した。再検査や検査法の見直しを約束するメーカーが多かったとい う。「昨年の秋以降はほとんど基準を超えた商品がない」と高松さんは話す。
     *
 商品に含まれる放射性物質をどこまで調べ、どこまで公表すべきか、食品メーカーは揺れている。
 放射性物質の影響を受けやすい子どもがよく飲む牛乳は、原乳の段階で自治体がモニタリングを行っている。メーカーは独自に商品に含まれる放射性物 質を測定しているが、結果の公表に慎重だ。乳業大手の明治は「自治体の検査を補完するため、工場で独自の検査をしているが、公表の予定はない」とする。森 永乳業、雪印メグミルクも同様だ。業界関係者からは「一律に検査を強いられれば、中小のメーカーの大きな負担になる」との声も漏れる。
 東日本大震災の発生から1年近くたった2月、業界に変化がみられた。日本乳業協会が加盟各社に独自の検査を要請し、29日に結果を初めて公表した のだ。東日本の17都県にある工場でつくられた117の製品からは放射性セシウム(134と137の合計、検出限界値は10ベクレル)が検出されず、安全 性が確認できたという。
 自治体のモニタリングを理由に公表に消極的だった乳業協会が、態度を変えた背景に、学校現場の強い要望がある。東京都東部の小学校に通う低学年の 子どもの母親(33)は「安全だと言われているけれど、具体的にどれくらい放射性物質が含まれているのか知りたい」とこぼす。親が子どもに給食の牛乳は飲 まないよう言い含め、牛乳を拒否する児童も各地で相次いだ。
 東京都内のスーパーでは、かつて見かけなかった北海道や西日本産の牛乳が山積みになっている。西日本の原乳のみでつくるある牛乳のメーカーは東日 本への出荷量が震災前の4倍になった。担当者は「人気が出てありがたい半面、『放射能を心配する客が遠くの商品を求めている』と小売りから聞かされて複雑 だ」と打ち明ける。外部に製品の検査を依頼しているが、東日本のメーカーと同様に詳細な検査の結果を公表していない。
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 情報が少ない中、親の不安は募る。自治体も独自測定で安全確保に努めようとしている。東京都武蔵野市は昨年10月、市が外部に依頼した測定で7ベクレルが検出された、学校給食用の低温殺菌牛乳の納入を差し止めた。
 親たちでつくる「子どもたちを放射能から守る全国ネットワーク」は牛乳メーカーに対し、放射性物質が国の暫定規制値を下回ったときも、「不検出」でなく測定値や測定条件などを公表すべきだと訴える。
 これに対し乳業協会は「メーカーが詳細な数値を公表して放射性物質の少なさを競う『低数値競争』が始まれば、結果的に風評被害につながる。国の基準を満たしていることを訴え続けるしかない」と困惑する。
 「政府の発表への不信感が根底にある現状で、メーカーが安全についての情報を適切に伝えて、消費者の安心を得ることは難しい」。リスクコミュニケーションを研究する「リテラジャパン」代表で福島県飯舘村のアドバイザーを務める西澤真理子さんは指摘する。
 西澤さんは、牛乳メーカーが独自検査の結果の発表を控えてきたことについて「平時からリスクコミュニケーションへ取り組んでおらず、保守的な対応 になってしまった」とみる。「放射性物質がどこに拡散したか国からの情報がなかったので、メーカーも対応が難しかったはず。放射性物質に限らず食品にリス クは付きもの。消費者との信頼関係を取り戻すため、牛乳が子どもにとって必要な栄養であることと並行して、食品にリスクがあることをわかりやすく伝えなけ ればならない」と話す。
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 キノコ類やモヤシなどを製造、販売する雪国まいたけ(新潟県)は早くから測定値の情報の開示に努めた。昨年9月に約2000万円のゲルマニウム半 導体検出器を2台、導入。新基準値より低い40ベクレルの独自基準をつくり、検査の結果をホームページ(http://www.yukiguni- anzen.jp/)で公開する。
 主力であるマイタケの出荷量は昨年8月に前年同期比で81・2%まで落ち込んだが、ホームページで検査の結果を公開した後の10月は、前年同期比で116・2%まで盛り返した。歌手の郷ひろみさんを起用したCMでも、検査の充実を宣伝した。
 マーケティング部の対馬秀夫係長は「取り組みが評価された。ただ、いくら安全性を強調しても、消費者から『まだ不十分』という声も寄せられている。放射能との戦いは長くなる」と厳しく受け止めている。【水戸健一】=つづく



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